谺 -世界で一番輝く光-(20)
この日のルートは、仙台坂から南麻布に入り、裏道を通って有栖川公園へ。
途中にあるこの建物が、たまらなく好きだ。
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以前前を通りかかった時から気になっていた建物。
一方通行とはいえ車通りの多い坂道に、
ひっそりと佇んでいる、小さなビル。
朽ちてはいるものの、一見しただけでは、
まだ人が住んでいそうな雰囲気だった。
何ヶ月か経ってまた前を通ってみた。
その日のその時間、
玄関のガラスブロックから刺す西日が、
こちら側の世界
と、入ってすぐの壁にある鏡に、
むこう側の世界
を映し出していた。
建物の中に入ると、ドアは錆び、壁は朽ちていたけれど、
そこには濃く、生の気配が漂っていた。
しかし誰もいない。
誰も住んでいるはずのない朽ち方。
生の気配は、過去の記憶。
建物自体が抱く記憶が、そこここに零れ落ちていた。
人の足が踏まなくなって久しい玄関に、
過去の記憶と生活が、
輝く光のように、谺(こだま)していた。
ひっそりと、
ひっそりと、
静かな死を待つその建物で。
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アルバムはメインサイト路地裏の花たちにて。
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