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2007年5月の投稿

2007/05/20

明日への祈り-回帰vol.5-(34)

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麻布十番、元麻布、三田小山町、南麻布

 

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昔から、公園や寺社に囲まれ、大使館が密集するこの町は、

生活するには便利で環境のいい場所として人気があった。

繁華街である六本木と隣り合わせでありながら

老舗の和菓子屋や隠れ家的な飲食店が多かったのも、

新しいものと古いものとが共存すると言われる一因だった。

 

この数年、観光ばかりでなく移住者の数も激増し、

まさに町は過渡期を迎えている。

至る所でビルが建ちはじめ、日中歩けばさながら工事銀座だ。

 

ある人は土地を売り町を出て、ある人は自分でビルを 建てる。

そこに大手資本の店が入る。

 

結果的に残るものは、なんだろう?

やってきた人たちが求めていたはずの『古いもの』は何も残らず、

そう遠くない将来は、どこにでもある店が並ぶ町になるだろう。

 

けれどきっとその流れは、ずっとずっと昔からはじまっていて、

誰にも止めることができなかったものなのだ。

なぜなのか人々は、それを強いられているかのように

変化する速度を早めずにはいられない。

まるでそう、泳ぎをやめると死んでしまう回遊魚のように。

 

それならそれでいい。

それが決められたことならば。

 

ただ、すべて壊しつくし、新しいもので町が埋め尽くされたとき、

それで心から『良かった』と。

誰もが思える結果であることを祈るだけ。

 

今在るものを壊すことは簡単でも、

それを取り戻すことは、

もう二度とできないのだから。

 

そしてここで育った私たちには、

帰れば緑に包まれているはずの故郷は、どこにもない。

 

 

2007年06月01日の日記より

 

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アルバムはメインサイト路地裏の花たちにて。

 

 

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2007/05/19

残景-回帰vol.4-(25)

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麻布十番、元麻布

 

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思い出すとき、過去はいつもセピアじみていて、

もちろん記憶が薄れるにつれ鮮明さもまた失われるのであるが、

それはきっと色褪せた写真や映画のフィルムで見る過去、

そして如何ともし難く色を失ってゆく骨董品や古着などの、

時代を経た物のイメージに影響されているからなのだと思う。

 

だから最初は、この風景をセピアで撮ったら、

いかにもという感じでやりすぎになるだろうと思っていた。

しかしいざこうして出来上がった写真を見てみると、

それはまさしく記憶の中のこの場所の風景と、

可笑しいくらいに一致しているのだった。

 

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アルバムはメインサイト路地裏の花たちにて。

 

 

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2007/05/13

置き忘れた夢-回帰vol.3-(36)

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青々とした空気を吸い込むと、
一瞬で時間が巻き戻るのだ。

よく晴れた秋の日も、
暑い夏の夕立のあとも、
いつもそこにあった匂い。

その匂いと一緒に
わたしは何かを
そこに置き忘れてきたようだ。

その空気と一緒に
そこに何かを忘れたまま
みんな散り散りになってしまった。




今、そこでは
何かが『お帰り』と
迎えてくれた。

 

 

 

元麻布(旧宮村町)

 

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私の原風景である。

幼稚園~中学校まで通って場所であり、母との思い出のある場所。

  

今回の散歩を始めたのには、地元の破壊のほかに、10年以上引き ずっていたPTSD、

2006年に突然なったパニック障害のリハビリなど、色々な理由があった。

ここは、母が亡くなってからその思い出が壊れるのが怖くて足を踏み入れられなくなった場所。

 

久し振りに行ってみると、ある部分を除いてはほとんどと言っていいほど、

私がそこを離れた20年前、そして子供の頃の30年以上前と変わっていなくて、

最初の数回はまるでタイムスリップをしたような衝撃にも近い感覚に何度も襲われた。

 

ただある部分、というのは、まさに自分が住んでいたところ。

そこだけが、新しくマンションが建ち、ガラリと一変してしまっていた。

それも道一本分という広範囲にわたって。

お稲荷さんがいた長屋のような一角もすでになくなっていた。

 

この写真の雑木林とその下にある木造の建物は昔のままで、

石段のズレまでが昔のままで、それが本当に懐かしかった。

カメラを持って歩いていると、近所の人に話しかけられた。

相手は覚えていないようだったが、子供の頃から知っている人だった。

その話をしていると相手も私のことを思い出してくれ、涙ぐんだ。

 

地元の写真を撮っていることを話すと、ちょっとこれ撮って!と、

マンションの上階に連れて行ってくれた。それがこの写真の風景である。

ここはバブル時の立ち退きでも散々揉めた一帯で、

立ち退きに反対した住民が自殺したりと色々あった場所。

それにまつわる以下のような話を、その人がしてくれた。

 

この木造3軒は、立ち退かなかった代わりにその後一切の家の補修を禁じられた。

ある時、大風で銀杏の枝が折れ、一番奥の家の屋根に突き刺さった。

その枝は屋根を貫通し、2階で寝ていた住人の真上で止まったという。

しかしその屋根を直すことも契約違反になるため、

それ以後ブルーシートを被せただけで生活しているということだった。

 

その家も、一番手前の家も、いまはもうない。

2009年に、とうとう取り壊されたのだ。

 

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このコートがあるのは、住宅地の奥まったところにある小さな児童公園。

昔は秋祭りの休憩地点でもあり、一番遊んだ公園でもある。

コートも昔からここにあって、足を踏み入れたのはまさに20年以上ぶりだった。

 

入った瞬間、めまいにも似た感覚が襲ってきた。

あまりにもそこは、昔のままだった。時間が止まっているのかと錯覚するほどに。

昔の子供達の声が、聞こえた気さえした。遊ぶ声。走る気配。

昔の空気がそのまま漂っているのを、はっきりと感じた。

 

 

一番印象深い風景は、小高い丘のようになった野原。

 

その真ん中になぜかポツリと、一軒の小さな家があった。 たしか、平屋だったと思う。

野原に洗濯物が干されている風景はまさに童話のようだった。

その家は私もかなり小さい時になくなってしまったけれど、

しばらくは野原のまま空き地になっていて、秋になると大量の赤とんぼが集まっていた。

 

その隣りの、庭のあるのマンションには叔母が住んでいて、 子供の頃は家とこの家と、

半々ぐらいで生活していた。 紅葉、柿、百日紅、月桂樹、躑躅…。

様々な樹木と草の茂る庭に面したベランダの窓は透明なガラスで、

とてもとても、その庭と窓が好きだった。

夏は蝉の声でうるさいくらいだったし、普通に5色位の蜘蛛やトカゲ、百足や蛇がいた。

 

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そのマンションもまた坂道を上り詰めた小さな丘にあって、

地下の管理事務所の横が小さな土手のようなになっていた。

ここにはたんぽぽが群生していて、晩春、 それが一斉に綿毛になった様は、

まさに夢のような光景だった。

そこは、20年も前に新しいマンションになってしまったけれど。

今でもよく、夢に出てくる。



私が住んでいたのは2階がアパートになった古い木造の魚屋さんの隣り。

道1本分、地上げ・立ち退きに遭って今はこんな建物になってる。

1枚目が魚屋さんのあった辺り、2枚目がその道を上りきった所。

 

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その先に高々とそびえているのは六本木ヒルズ。

この道沿いに、同級生や先輩や後輩がたくさんいた。

木造や小さな鉄筋の建物がいっぱい並んでいた。

もう何もない。誰も残っていない。

記憶以外は。

 

もう一度、あの場所に立てるなら、何も要らない。

本当に、何も要らないと強く思う。

 

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アルバムはメインサイト路地裏の花たちにて。

 

 

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2007/05/12

Spring Garden 2007(20)

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横浜・港の見える丘公園。

ここの薔薇園にはできる限り毎年行っている。

初めてここでバラを見た経緯は、こ の日のノートで。

 

この年のバラは色も形もなぜか今ひとつ。

天候どもも関係あるのだろうか?

 

それでも空気全体に漂う芳香は、どんな香料もかなわない。

そして写真でも伝わらない。

 

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アルバムはメインサイト路地裏の花たちにて。

 

 

 

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2007/05/06

記憶-回帰vol.2-(31)

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こうしてモノクロで見ると、まるで昔のままのような錯覚が。

このあとビルが建った空き地もあれば、取り壊された建物も、

無人になってしまった家もある。

 

ここは昔、電気屋さんだった。

電気といっても家電を売るのではなく、修理をしていたと思う。

昔はブレーカーのヒューズが切れると、ここのおじいちゃんが直しにきてくれた。

 

この家も、今は無人になってしまったようだ。

 

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アルバムはメインサイト路地裏の花たちにて。

 

 

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2007/05/03

去り行く日々-回帰vol.1-(27)

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三田小山町、麻布十番、元麻布

 

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人が変わり、町が変わり────

自分の居場所さえ、無くなってしまうような錯覚を覚える。

 

今回写真を撮り始めたのは、この急激な町の変化に消えてゆくものを残すためだった。

このアルバムからの5つに、特にその意味の深い写真が入っているので、

それを回帰というシリーズで考えている。

 

三田1丁目は戦争でも焼けずに残った一帯で、その後大きな建物ができることもなく、

戦前から一度も土地が掘り返されていない、古いしもた屋の並ぶ町並みが残っていた。

地元の人は未だに旧町名の「小山町」という名で呼ぶことが多い場所だ。

今から30年近く前からここの再開発の話はあったのだが、

住民の反対などからそれをどうにか免れていた土地でもあった。

 

大通りから何本か細い路地が繋がっていて、

一歩そこに足を踏み入れるとまるでタイムスリップした気分になるような、

本当に昔のままの町並みが、ほんの3年前までは残っていた。

いつかここを撮ってみたいと思いながらもなかなか実行には移せず、

色々なタイミングが重なって私がカメラを手にその場所に通うようになった時には、

その路地はすでに封鎖され、再開発という名の町の破壊が始まっていた。

 

今でも、目に浮かぶ風景は、日進の脇から入って新堀橋を渡り、

通りに出ると、ちょうど向かい側のお米屋さんの細い路地と、

道をふさぐほどに茂った雑木が目に入る。そしてその先に並ぶ家並み。

 



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あの白い花たちは、どこへ行った?

青々とした草が茂る鉢も、 緑や赤い葉をつけた木も。

そして花を落とした椿の木は?


入れる場所だけをうろうろし写真を撮っていたが、ふと気づくと、

どの家もほとんど、すでに住人が引き払ったあとだった。

一瞬、肌寒いものを感じた。

なぜなら、どの家もまだ人の気配がしていたから。

 

08


 


誰もいない。

誰もいない。

ここにはもう、誰もいない。

 

そこにあった花や木や、虫。

そんなものの数え切れない命の上に、何かが建とうとしている。

 

この開発で生まれるものは何?

そのために、一体いくつの命が奪われるのか。
 

 

この少し前、元麻布にある森ビルの高層マンションの前を深夜2時過ぎに歩いていたら、

まるで墓地のようだった。 それが建つ前、そこはやはり古い木造家屋と雑木林から成る、

ごちゃごちゃした住宅街で、蝙蝠の生息地でもあった。

 

小山町の今の姿を目の当たりにして、 なぜそこが墓場のような雰囲気だったのか、

自分の中ではすべてが合致したような気がする。

その場所の歴史と命をすべて破壊し、 そこに新たに建つものは、墓場以外のなんだろう?

 


港区三田1丁目、旧称小山町。 御神木さえ枯らされた町。

そう遠くない日に、そこには巨大な墓地が完成する。

 

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アルバムはメインサイト路地裏の花たちにて。

 

 

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