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2007/05/13

置き忘れた夢-回帰vol.3-(36)

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青々とした空気を吸い込むと、
一瞬で時間が巻き戻るのだ。

よく晴れた秋の日も、
暑い夏の夕立のあとも、
いつもそこにあった匂い。

その匂いと一緒に
わたしは何かを
そこに置き忘れてきたようだ。

その空気と一緒に
そこに何かを忘れたまま
みんな散り散りになってしまった。




今、そこでは
何かが『お帰り』と
迎えてくれた。

 

 

 

元麻布(旧宮村町)

 

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私の原風景である。

幼稚園~中学校まで通って場所であり、母との思い出のある場所。

  

今回の散歩を始めたのには、地元の破壊のほかに、10年以上引き ずっていたPTSD、

2006年に突然なったパニック障害のリハビリなど、色々な理由があった。

ここは、母が亡くなってからその思い出が壊れるのが怖くて足を踏み入れられなくなった場所。

 

久し振りに行ってみると、ある部分を除いてはほとんどと言っていいほど、

私がそこを離れた20年前、そして子供の頃の30年以上前と変わっていなくて、

最初の数回はまるでタイムスリップをしたような衝撃にも近い感覚に何度も襲われた。

 

ただある部分、というのは、まさに自分が住んでいたところ。

そこだけが、新しくマンションが建ち、ガラリと一変してしまっていた。

それも道一本分という広範囲にわたって。

お稲荷さんがいた長屋のような一角もすでになくなっていた。

 

この写真の雑木林とその下にある木造の建物は昔のままで、

石段のズレまでが昔のままで、それが本当に懐かしかった。

カメラを持って歩いていると、近所の人に話しかけられた。

相手は覚えていないようだったが、子供の頃から知っている人だった。

その話をしていると相手も私のことを思い出してくれ、涙ぐんだ。

 

地元の写真を撮っていることを話すと、ちょっとこれ撮って!と、

マンションの上階に連れて行ってくれた。それがこの写真の風景である。

ここはバブル時の立ち退きでも散々揉めた一帯で、

立ち退きに反対した住民が自殺したりと色々あった場所。

それにまつわる以下のような話を、その人がしてくれた。

 

この木造3軒は、立ち退かなかった代わりにその後一切の家の補修を禁じられた。

ある時、大風で銀杏の枝が折れ、一番奥の家の屋根に突き刺さった。

その枝は屋根を貫通し、2階で寝ていた住人の真上で止まったという。

しかしその屋根を直すことも契約違反になるため、

それ以後ブルーシートを被せただけで生活しているということだった。

 

その家も、一番手前の家も、いまはもうない。

2009年に、とうとう取り壊されたのだ。

 

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このコートがあるのは、住宅地の奥まったところにある小さな児童公園。

昔は秋祭りの休憩地点でもあり、一番遊んだ公園でもある。

コートも昔からここにあって、足を踏み入れたのはまさに20年以上ぶりだった。

 

入った瞬間、めまいにも似た感覚が襲ってきた。

あまりにもそこは、昔のままだった。時間が止まっているのかと錯覚するほどに。

昔の子供達の声が、聞こえた気さえした。遊ぶ声。走る気配。

昔の空気がそのまま漂っているのを、はっきりと感じた。

 

 

一番印象深い風景は、小高い丘のようになった野原。

 

その真ん中になぜかポツリと、一軒の小さな家があった。 たしか、平屋だったと思う。

野原に洗濯物が干されている風景はまさに童話のようだった。

その家は私もかなり小さい時になくなってしまったけれど、

しばらくは野原のまま空き地になっていて、秋になると大量の赤とんぼが集まっていた。

 

その隣りの、庭のあるのマンションには叔母が住んでいて、 子供の頃は家とこの家と、

半々ぐらいで生活していた。 紅葉、柿、百日紅、月桂樹、躑躅…。

様々な樹木と草の茂る庭に面したベランダの窓は透明なガラスで、

とてもとても、その庭と窓が好きだった。

夏は蝉の声でうるさいくらいだったし、普通に5色位の蜘蛛やトカゲ、百足や蛇がいた。

 

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そのマンションもまた坂道を上り詰めた小さな丘にあって、

地下の管理事務所の横が小さな土手のようなになっていた。

ここにはたんぽぽが群生していて、晩春、 それが一斉に綿毛になった様は、

まさに夢のような光景だった。

そこは、20年も前に新しいマンションになってしまったけれど。

今でもよく、夢に出てくる。



私が住んでいたのは2階がアパートになった古い木造の魚屋さんの隣り。

道1本分、地上げ・立ち退きに遭って今はこんな建物になってる。

1枚目が魚屋さんのあった辺り、2枚目がその道を上りきった所。

 

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その先に高々とそびえているのは六本木ヒルズ。

この道沿いに、同級生や先輩や後輩がたくさんいた。

木造や小さな鉄筋の建物がいっぱい並んでいた。

もう何もない。誰も残っていない。

記憶以外は。

 

もう一度、あの場所に立てるなら、何も要らない。

本当に、何も要らないと強く思う。

 

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アルバムはメインサイト路地裏の花たちにて。

 

 

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