去り行く日々-回帰vol.1-(27)
三田小山町、麻布十番、元麻布
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人が変わり、町が変わり────
自分の居場所さえ、無くなってしまうような錯覚を覚える。
今回写真を撮り始めたのは、この急激な町の変化に消えてゆくものを残すためだった。
このアルバムからの5つに、特にその意味の深い写真が入っているので、
それを回帰というシリーズで考えている。
三田1丁目は戦争でも焼けずに残った一帯で、その後大きな建物ができることもなく、
戦前から一度も土地が掘り返されていない、古いしもた屋の並ぶ町並みが残っていた。
地元の人は未だに旧町名の「小山町」という名で呼ぶことが多い場所だ。
今から30年近く前からここの再開発の話はあったのだが、
住民の反対などからそれをどうにか免れていた土地でもあった。
大通りから何本か細い路地が繋がっていて、
一歩そこに足を踏み入れるとまるでタイムスリップした気分になるような、
本当に昔のままの町並みが、ほんの3年前までは残っていた。
いつかここを撮ってみたいと思いながらもなかなか実行には移せず、
色々なタイミングが重なって私がカメラを手にその場所に通うようになった時には、
その路地はすでに封鎖され、再開発という名の町の破壊が始まっていた。
今でも、目に浮かぶ風景は、日進の脇から入って新堀橋を渡り、
通りに出ると、ちょうど向かい側のお米屋さんの細い路地と、
道をふさぐほどに茂った雑木が目に入る。そしてその先に並ぶ家並み。
あの白い花たちは、どこへ行った?
青々とした草が茂る鉢も、
緑や赤い葉をつけた木も。
そして花を落とした椿の木は?
入れる場所だけをうろうろし写真を撮っていたが、ふと気づくと、
どの家もほとんど、すでに住人が引き払ったあとだった。
一瞬、肌寒いものを感じた。
なぜなら、どの家もまだ人の気配がしていたから。
誰もいない。
誰もいない。
ここにはもう、誰もいない。
そこにあった花や木や、虫。
そんなものの数え切れない命の上に、何かが建とうとしている。
この開発で生まれるものは何?
そのために、一体いくつの命が奪われるのか。
この少し前、元麻布にある森ビルの高層マンションの前を深夜2時過ぎに歩いていたら、
まるで墓地のようだった。 それが建つ前、そこはやはり古い木造家屋と雑木林から成る、
ごちゃごちゃした住宅街で、蝙蝠の生息地でもあった。
小山町の今の姿を目の当たりにして、 なぜそこが墓場のような雰囲気だったのか、
自分の中ではすべてが合致したような気がする。
その場所の歴史と命をすべて破壊し、 そこに新たに建つものは、墓場以外のなんだろう?
港区三田1丁目、旧称小山町。 御神木さえ枯らされた町。
そう遠くない日に、そこには巨大な墓地が完成する。
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アルバムはメインサイト路地裏の花たちにて。
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